2011年2月1日火曜日

「日本経済のウソ」を読んで

日本経済のウソ (ちくま新書)
日本経済のウソ (ちくま新書)

経済学に関してはド素人の私ですが、真面目にこの本を読んでみました。もちろんすべて理解できていないですけど...。日本銀行の量的緩和政策を促す高橋洋一氏の近著。

高橋さんは統計的にすごくロジカルに分析・解説してくれるのですばらしくわかりやすい。こういう人の本を読むとやっぱ日本の官僚は優秀だと感じてしまう。どうやらプリンストン大学時代のバーナンキに薫陶を受けたことがかなり大きく影響しているようである。

 「経済学や社会科学では事業の効果を明確に計測する手法がない」と書かれていたけど確かにそうかもしれないね。自分が大学院でやってる研究も社会科学に近いもんがあるけど、結局統計学で立証する以外に方法論がない。でも、結果論でも多くが正しければ正しい可能性は高いんだろう。

参考になった部分。印象に残った部分の要約・抜粋及び感想。
日本経済の定説を疑うべし
・本書では日銀の量的緩和政策が不十分だったことを最近の出来事を中心の分析している。日銀は量的緩和について「金融システムの安定化」としてそのマクロ経済効果はないと言ってきた。逆に言うと、金融政策は経済停滞の原因とはならない。
・経済学や社会科学は、効果を定量的に計測する手法があんまりない。リーマンショックは量的緩和政策の効果を実証するのに良い実験例となった。
スイスの国立銀行は、世界最初の中央銀行であり、1931年には世界ではじめてインフレ目標を設定し、大不況を抜け出し他国として有名。ノーベル経済学賞の創立国でもあり、国民は経済学を信頼している。

ノーベル経済学賞がすべてなのかと言われたら確かにあれだけど,世界的な権威だから
量的緩和をすすめるクルーグマンもノーベル賞受賞。日本ってやっぱガラパゴスなのか?

■日銀はデフレの確信犯
・日銀は日本をデフレにしている確信犯。日銀は消費者物価を0から2%にする様な金融政策を運営しているというが、消費者物価が0 ~-1%になるように運営してきた。
・こんなことになってしまったのは日銀法が問題である。先進国では中央銀行は手段の独立性を保っているが、目的は独立していない。日銀法では目標まで日銀が決めてよくその結果デフレ経済になっても日銀の責任ではない。これほど巨大な権力をもった中央銀行は世界にはない。

日銀って確かに頭脳明晰のエリート中のエリートなんだから,バーナンキやクルーグマンの言っていいることも必ず理解しているはずだ。なんで、こうなるんだろう。組織の罠なのかね?

■ニューケイジアンモデルの誕生
・実際はというと、人々はそれほど合理的に将来を考えているのではなく、まったく将来を考えていないとも言えない曖昧なものだからだ。このような問題を解決することが、マクロ経済学の1980年代以降の課題であった。
・そこで生み出されたのが、現在のマクロ経済学で標準なフレームワークとなっているものである。この分析は、2004年にノーベル経済学賞を与えられたフィン・紀ドランドとエドワードプレスコットによる実物的景気循環理論をベースにさまざまなミクロ理論を取り込んだシンプルな構造だった。この実物的景気循環理論に、独占や寡占を含む不完全競争や財の種類によって異なる価格の硬直性、賃金の硬直性などを組み込むと現在主流となっているニューケイジアンモデルになる。
動学的一般均衡分析は、現時点でまだ発展途上であり、現実の政策決定に使うのは時期尚早という意見が多いモデルである。単純なモデルであるため、一部の政策機関では研究的に施行され、試行されているが、現実世界のデータを十分にフォローできず、政策担当の信頼を十分に得ていないのが実情である。

経済学の素人であるためこの辺はあいまい。でもマクロ経済学上の論争が激しく行われてきたのは分かる。前提条件でいかようにも変わるというルーカスの批判によって,学会はめまぐるしい発展を遂げた。

■日本経済は破たんしない
破たんとは何か?まず言葉の定義を明確にしなければならない。日本が破綻するという人は「国に破綻とは国債の暴落」というケースが多い。
・典型的な10年間の国債について、現在の金利は1.4%程度であるが、もし5%になれば国債価格は25%以上も低下する。あるいは金利が10%になれば、国債価格は50%以上も低下する。しかし、暴落とはどのくらいの期間で国債価格が何%低下するということなのか?これは定義しない限り議論をしても意味がない。
・ギリシャは財政危機に関して公務員給与カットなど税制支出削減、増税というギリシャ独自の緊縮財政を発表しているがヨーロッパのなかでも指折りの公務員天国であり、その実効性が疑われている。おまけに、ギリシャは雇用者の24%は公務員であり、その所得は全体の23%である。政府所有企業の価値はGDP18%となんとも高い。公的セクターの多い日本でも政府所有の企業がGDP10%あるからすごい。
インフレ目標になると金利が上昇するから問題だという人が多いというのが実感。名目成長率と金利は同じような動きになるから問題だという人もいる。これはおかしな話である。
・民間経済がしっかりしていないから、財政最近のための公務員給与カットや民間経済への増税ができるかどうか疑問視されている。

破綻の定義が重要であるとの主張。確かに科学的には,言葉の定義ってすごく重要だ。議論が定まらない。デフレとか破綻とかそういった言葉の定義はとても重要。

■郵政国営化は民業を圧迫する
・金融において、信用が決定的に重要である。国有で政府の後ろ盾があれば、調達コストは国債金利並みになって、最低コストになる。そのままでもし民間並みの経営ができれば、民間金融機関ではまったく対抗できなくほど、強い金融機関になる。これが、国有金融機関に常につきまとう民業圧迫である。
・国有ということは、株主が国民であり、国民は業務を無制限にした倍の運用の失敗のつけを回され、国民負担が増えることを嫌う。そのためあらかじめ、国有の金融機関の業務を制限し、安全かつ確実に運用する。国有の金融機関の場合、武士の商法になって運用失敗する可能性が高い。

量的緩和政策の話がメインだったが郵政の話も盛り込まれていた。高橋さんの主張は鋭い。民営化の本質は、経営が成り立つかどうかであるとの主張。また,官制金融システムの問題点を厳しく追求している。

量的緩和政策やデフレに関する経済ブログを・・・
ケイジアンVSマネタリスト:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669368.html
貨幣数量説:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669057.html
デフレ対策にフリーランチはない:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51626688.html
復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲:http://cruel.org/krugman/krugback.pdf


【まとめ&感想】
 新書なのにハードカバーの本をガッツリと読んだような充実感が得られた。統計データや実証分析も精緻でさすが東大数学科卒の財務官僚だわと思ってしまった。
 量的緩和政策の話をしていたのに、最後郵政民営化のはなしになった。でもこの章のおかげで、自分も城内実さんが言っていた「自分も郵政は税金投入を受けない独立採算制だ」というのをまるで信じ込んでいたことが明らかになった。官制金融システムのなかに埋もれて税金が実は投入されていたんだな。
あと高橋さんはさすが数学科だけあって、言葉の定義をしっかりしている。破たんとか、デフレとかもともと言葉の定義があいまいなまま議論しているからそもそも身も蓋もないことを強く主張している。たしかにその通り。
 ツイッターで池田信夫さんなんかのつぶやきを見ていると、「量的緩和政策の有効性は実証したいのは分かるけど学会でちゃんと発表して下さい」とか「高橋さんは財務省をやめておかしくなってしまった。非常lに残念だ」というようなコメントをよせており、今後の展開が気になるところである。
 リフレ派の議論は若手の経済学者を中心に盛り上がりつつあるようで、今後の展開が気になる。もちろん、池田さんも著名でアグレッシブな経済学者であることは事実である。

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