2011年2月28日月曜日

「人と違うことをやれ!」を読んで

人と違うことをやれ! (PHP文庫)
人と違うことをやれ! (PHP文庫)


堀紘一さんの本。実はこの方の本を読むのは初めてだが、存在はかなり前から知っていた。サンデープロジェクトとか朝生でいつも田原さんの番組に出ていることで知っていた。経歴もすごい。新聞記者から総合商社へそれからハーバードMBAをベイスカラーで卒業しBCGの日本トップにさらには自分でコンサルつくって起業して海外にも展開しているとうなんともすごい。でも僕は、最初は傍若無人でうるさい年寄りって感じがして好きにはなれなかった。しかしこの本を読んでやっぱすごいなと感じてしまった。きれいごとを書いてるのかもしれないけど,歩んできた人生は確かにすごいし説得力を感じた。印象に残った部分の要約・抜粋及び感想は以下に。


■仕事を途中でやめると集中力が高まる
・「これで終わっていいのか?」考えたとき、さっと最終チェックをして後戻りはしない。
突き詰めて考えて、無駄に時間を使ったりしない。周りがギャーギャー騒ぎだしたらまた集中力を一気にあげて始める。アフターファイブを楽しんで、明日のために脳をリフレッシュする。
・仕事が長引くのは脳が使えていない証拠。頭がいい人はパパッといい仕事をしてさっさと片付けてかえる。集中力の密度が違う。
確かに疲れた頭でうんうん考えてもしょうがない。ここ一番の集中力がとても大切なのだ。

人間の脳の摩訶不思議な力を出す最後の一センチ
・もう限界だと感じてからあともうひと絞り考えてみたら、爆発的にブレイクスルーする。考える力のもととなる、洞察力、発想力、集中力、記憶力、をバランスよく磨いていないといけない。「何事も徹底して考える」という習慣グセ。本当か?自分ならこうやる、と常に考えるという習グが大切。
徹底して考えることの重要性が綴られている。決断や判断力に敏感になることの重要性は最近すごく感じている。

■原因他人説に逃げ込まない
・問題は、上司のせい、会社のせい、社会のせい、は絶対だめ。自分に問題があるように常に考える。素直に自分の悪い点を認める。自分のこうゆうところ、を直していこうという前向きな気持ちになれる。
・堀君って「なんでスパスパと気持ちの切り替えができるの?」に対し、まず考えるより体が自然と動き、「興味の対象があまりに多すぎて夢とか目的があれこれ多かったから。」と答えていた。
・20代はがむしゃらに、ライフスタイルや価値観を固めない。とにかくぶち当たって自分を変形させる。
ここのフレーズはめちゃくちゃ共感できる。原因を全部他人になすりつけている人って絶対成長できないし、周りの人間も離れていく。原因自分説に立脚してなおかつポジティブな前進型が理想。


■私が銀行マンならこう考える
銀行の新規開拓営業は難しい。相手が決して満足していないサービス内容に着目する。「あなたが今取引されている銀行に対する不満はどんな点がありますか?自分の取り引き先にはなかなか言えませんから。ご迷惑な話だと思いますが、ひとつご教授下さい。」必ず現取引銀行への不満はあるはず。
銀行マンは普段から預金をよこせとか、金を借りろとか言ってくるくせに、「不満はないか」などおもしろい奴だ。これを全部解消してあげれば取引は成立する。
相手の不満を手がかりにするこつが語られている。自分が銀行員ならこうするという内容。だてに考えて記者・商社・コンサルはやってませんよというのは分かる。


■意外性の交渉術
・こいつは一生懸命になってただ働きをして可哀そうだという気持ちにさせる。ソニー会長出井氏オリックス社長宮内氏から案件を頂いた。相手にとってまさかということを繰り返す。
要はあまりがつがつせずに人つきあいをすること。打算的に考えれば全く役にたたなくなる。だから、日参していたような部下や取り巻きのあしがすっかり遠のいてしまった。
人脈の先行投資術の一つでもある。ビジネスの前線から退いたメーカーの顧問との会食の話。一件メリットはないように思えるが、お世話になった人をねぎらう気持ちは打算でやらない。噂や人情に関する話は人伝いに広がる。堀は意外と人情味のある男だという話が広がっていた。この人と付き合ったら損か得かと考えずに豊かな人間関係を築く。
重要なときほど,損得考えずに打算に走らず人として正しいコミニュケーションをとることが大切。たしかにここもかなり共感できる。


■少数派であることを恐れない
・こういうときに気の利いた反対意見を出せる人間。今すぐ採用するわけにはいかないが新しいアイディアを次々と出せる人間は、経営者にとってたのもしくもあるなにかやってくれるのではないか、と期待感を持たせてくれる。
・いま取り組んでいる実務や仕事の中で取り換え不可能な力を身に着け、存在価値を高める。
取替え不可能な力を身に付けることが大切なのだ。今自分がいなくなったらまずいと思わせる力である。


■トップの生保レディに学ぶ
生保は歩合制であり、個人で評価される。日本生命のトップはこう戦術を立てた。「コツコツと一人ひとり売り歩いても埒があかない。中小企業の経営者だと狙いを定める。
莫大な先行投資をしつつも、「本日はお忙しいようなので失礼致します。またお会いできることを楽しみにしています。」といって去る。多少の時間と投資金は必要とするが、顧客とセールスという関係以上の心の通い合いができる。
交渉術の巧みさが垣間見れる。自分にはまだこういった巧みなわざは到底できないだろう。

【まとめ&感想】
意外性の交渉術人脈の先行投資自責論にはかなり共感できた。この人はテレビにうつっているときの印象が極めて悪い。ほんとはかなりすごい人のはずである。これからも注目したい人である。こちらも必見。
日本の成長戦略


「一秒で財務諸表を読む方法」を読んで

「1秒!」で財務諸表を読む方法―仕事に使える会計知識が身につく本
「1秒!」で財務諸表を読む方法―仕事に使える会計知識が身につく本

小宮一慶さんのブレイクした本の一つである。僕もこの本が売れ始めたときは小宮さんの存在を知らなかった.やっと存在を知り注目するようになったのは、ビジネスマンのための「発見力」養成講座 (ディスカヴァー携書)とかあたりまえのことをバカになってちゃんとやるとかが売れ始めたあたりで知り少し興味をもった。この方はやっぱ人間力がすごく長けてる。までもこの本からはそこまで分からないけど...。読んだのは1年くらい前だが、すごく分かり易く会計の素人でも分かる内容だったから思い出してレビュー。
印象に残った部分の要約と感想を以下に.

■外資ファンドが狙う企業の貸借対象表
・日本でもファンドによる企業買収が進みつつある。
・銀行などからの借り入れの間接金融、株式や社債の発行による直接金融についで、第3のファイナンスと呼ばれる。
・スティールパートナーズ、はサッポロHDや明星食品をはじめ、ブルドックソースなどの株式を買い進めた。標的になるポイントは、①自己資本比率が高く、②ROEが低い会社。
・日本の伝統的な企業の多くは、土地による含み益がかなりある。自己資本比率が高く、安定したキャッシュフローを生んでいればなおさら欲しくなる。
・レバレッジとは、てこのことだが、ファイナンスの世界では、「負債」,「有利子負債」のことである。ROEを挙げるとは、ROAを高める。 財務レバレッジを高める。
ハゲタカファンドが日本の企業をかっさらっていたときのトピック。そもそも「ハゲタカ」なんて名前つけちゃうところがおかしいんだよね。資本の論理に従っているだけ。あと単にカルチャーが違うだけだよね。ROEの説明はとても分かり易かった。

■ファンドが儲ける仕組み
・借入金を用いて買収する。これをLBOという。買収された企業がLBOにおける借入れ金を返済することになる。アクティビストと呼ばれるファンドは、10%以上の株式を保有して、ある程度の発言権を持ち企業の配当増額を要求する。
・日清食品のように、ホワイトナイトとして登場し、スティールから高く買ってくれることになれば、ファンドとしてはうれしい。
・十分なパフォーマンスも果たせないまま、嫌な株主は除外して、上場を維持したいなどという身勝手な考え方はおかしい。
最後のフレーズはたしかにそうだな。日本ってとりあえず上場しとけば優良企業でひとつの称号みたいなところがあったらしいけど、最近はどんどんその意味がなくなってきている。

■参入しやすいが儲けがそれほど大きくない卸売業
・右から左や商品を流すのがビジネスの要。工場などの設備は必要としない。オフィスと小額の人件費で十分。参入障壁は低い。机と電話があればできる。売上高から販売商品の仕入れ額を差しいたものを粗利という。粗利率に基本的に低い。これらの業種は、固定費負担が少なく参入が比較的容易だが損益分岐点売上高が高くないのが特徴。
・設備投資型産業は,損益分岐点売上高が高く、また損益分岐点を超えた場合の利益率が高い。流通業は損益分岐点売上高が低くまた、損益分岐点を超えた場合の利益率も低い。
設備投資型産業と流通業の損益構造を固定費と変動費の観点から説明している。実に分かりやすい。

■固定費と変動費
鉄鋼業などは、装置産業であり、固定費が高く、変動費が小さい。卸売業などは、その逆で、固定費はそれほど大きくないにせよ、変動比率が小さい。
・航空機産業のビジネスのポイントは、「増し分増益」と「競争」。
航空機産業は、固定費型産業。会社全体で見れば、変動費型、一機ごとに見れば固定費型。固定費型産業だが、例えば、東京・大阪間一回飛行機を飛ばすとすれば、燃料費や着陸料は何人乗ろうと変わらない。変動費は、毛布や飲料水代程度。
・だからこそ、航空機産業では、まず損益分岐点まで乗客を確保すること。そうしなければ赤字になるから、そのための方法は以下の二つ。(1)普通の運賃で売上高の確保をする。(2)人数は増えるが、割引運賃で損益分岐点売上高を確保する。
・安い航空券がでるのは、「空気を運ぶより人をのせたほうがマシ」ではちょっと説明不足。
JR新幹線も同じ損益構造なのになぜ割引しないのか?
損益分岐点分析が具体的な事例をもとに理解できる。航空機産業とか運輸業とかって基本的に固定費型産業なんだ。だからいかに割りびいてでも人とか物を載せたほうが効率がいい.

■液晶テレビの価格がどんどん下がる理由
直接減価計算の考え方を用いる。
・この理由は、多額の設備投資と競争がポイント。
・設備投資額が販売価格に転嫁される。もちろん生産数量が価格に大きな影響を与える。
競争が競争を生み、生産過剰が供給過剰を引き起こし、余計に価格が下落することになる。いわゆる、合成の誤謬の状態。個別企業では、価格競争力を得るためにコスト削減が大切であり、そのためにできるだけ製品を大量に生産した方が償却負担の関係でコストを引いて製品価格が安くなる。
・世界メーカーが、その思惑で生産規模を拡大すると、供給過剰を生み、競争激化でさらに価格が下落する。その価格下落に対応するために、生産拡大でコスト削減を行う必要が生じる。まさに、悪循環。
個別企業の利益最大化と市場全体の効率性の間にジレンマが発生してしまっている。まさしく合成の誤謬。

■花王が気にしたのはWACC
WACC(加重平均調達コスト)は、負債と純資産の調達コスト。自己資本比率が高くなるほうが、WACCが高くなる。
ROAWACCよりも大きくなくてはならない。
・カネボウ化粧品は、産業再生機構の参加にあったあの混乱期でも安定して収益を上げていた。花王の傘下に入ればもっと収益が上がる。
・貸借対照表からみたカネボウは、ほとんど借入金で買収した理由である。つまり、借入金を増やすことにより金利負担は増えるが自己資本比率を大きく下げることにより、WACC自体が下がる。さらに、時間がたてば、資産が償却してしだいにROAは高まる。
敵対的買収の防衛策になる
(1)   思惑通り利益やROAが上昇すれば株価が上がり、時価総額が上がる。
(2)   カネボウの化粧品部門を取り込むことにより、企業規模が大きくなり結果的に時価総額を大き
くする。時価総額が大きくなると、防衛策になる。
ROEとかWACCとか会計を学びはじめてから最近知ったけどこうゆうツールを使って企業を切り裂いて分析するととてもおもしろい。


SCMについて
・大規模な消費材メーカーは、SCM(サプライチェーンマネジメント)を導入していることが多いと聞く。原材料、部品の生産、デザイン、加工な別々の会社でやっているプロセスをトータルで管理する
・例えば、アパレル業界ではエジプト綿をイタリアで染色しそれを中国の工場で縫製つくるといった具合。この場合大手商社が一括管理している場合が多い品質、在庫、物流、資金、それを支えるシステム管理、意思疎通など、様々な点でノウハウや考察が必要。
最後にSCMについての説明があったので。最近では物流管理が著しいらしくSCMは一つの重要キーワードになるだろう。

【まとめ&感想】
教科書のように1から体系立てて説明するより,こうやって最新のトピックごとに区切って最新のネタを使って説明するのも結構いい。この本は楽しめながら読めた。特に会計や財務の初学者にはもってこいの一冊だと思う。
こちらも必見。
「1秒!」で財務諸表を読む方法【実践編】

2011年2月6日日曜日

「コーポレートファイナンス」を読んで

コーポレート・ファイナンス入門 (日経文庫)
コーポレート・ファイナンス入門 (日経文庫)

最近はファイナンス本をがんがん読んでいるせいで・・・。日経文庫からの本なので、結構固い本ですが分かりやすくコンパクトにまとまってていい本。DCFの考え方、WACCの考え方、配当政策リアルオプション、コーポレートガバナンス、IRRなど全部結構詳しく説明してある。まじめな本ですがオーソドックな入門書
印象に残った部分、勉強になった部分は以下の通り。

■なぜコーポレートファインナンスを学ぶか
(1)株主の立場から考える
・株主の企業の資金調達投資行動配当政策について考える。新聞や経済史などで株主重視の企業経営という言葉をしばしば目にする。
・株主重視というと、従業員や取引先、顧客を軽視するかのように思えるがそうではない。
(2)経営資源を効率的に利用する企業経営
・取引先、従業員、債権者、政府に対して支払うべきものを支払った後、ようやく株主の順番になる。株主に分配されるのは残余利益。残余利益を増やせる企業は経営資源を効率的に運営しているともいえる。
(3)株主まで満足すればみんな満足
・株主は企業の利害関係者のなかで、収益の配分を受ける立場として最後になる。
株主が満足する利益還元を実現できる企業は、取引先や従業員、債券者に対する支払をきちんと行っている。
(4)株主は企業の経営者を選出する
取締役会は、企業経営の意思決定機関である。経営陣あるいは経営者にとってもよい。起業経営者になるものは、内部出身者ほとんどであり、内部の事情や取引先に精通する一方で、内部に目が奪われがちであった。
・1990年代以降は、株主重視という視点から企業外部から経営に関与する社外取締役が増えている。

株主重視経営のあり方が語られている。日本的経営からの脱却を試みた1990年以降の本質がわかる。


銀行借り入れからマーケットでの資金調達
戦後、わが国の資金調達において中心的な役割を果たし来たのは、銀行からの借り入れである。現在でも、銀行借り入れが主要な資金調達手段であることは、変わりない。しかしながら、企業の資金調達に占める銀行借り入れが低下しつつあるのも事実。
・企業が銀行借り入れから脱却しつつある一因は、銀行を取り巻く環境変化にもあると思われる。
1980年代後半から1990年代前半にかけて、我が国の銀行は、様々規制(たとえばBIS規制)や不良債権問題に直面し、貸出残高を縮小せざるを得なくなった。そのため、銀行は以前ほど企業の資金ニーズにこたえることができなくなった。そこで、銀行借り入れに依存していた企業は、新たな資金調達のルートを確保する必要が出てきた。
・銀行借り入れに代わる資金調達手段として、株式調達や社債調達などマーケットからの資金調達が注目を浴び始めたのが1980年代以降である。
・いくつかの大手銀行が倒産したことも、企業がマーケットからの資金調達に軸足を移している原因である、取引銀行が倒産すると、銀行のみに頼ってきた企業は資金調達は困難になる、銀行倒産が珍しいことでなくなった

日本の戦後の高度成長と資金調達方法の変遷を知ることができた。1990年代以降って金融ビックバンとかBIS規制とかでめちゃくちゃ銀行も変化を求められた時代だったんだな。。。

産業発展の視点
・ここ数年、株式市場を通じて最も多くの資金を調達しているのは、ベンチャー企業である。ベンチャー企業は、事業がある程度軌道に乗ると、マーケットを通じて資金を調達し、事業を拡大していく。ベンチャー企業が株式を一般投資家に発行して、資金調達すること新規公開(IPO)という。現在、我が国には、ジャスダック、マザーズ・ヘラクレスなどベンチャー企業の新規公開を支援するマーケットが整備されている。
株式市場からリスク・マネーを提供する場と言われている。株主には、債権者より大きなリスクを負担する株主はそれに見合ったリターンが期待できなければ、株主は資金を提供しない

最近勝間さんの本を一気にバーって読んでんだけどすごく「リスク」って言葉をよく使ってる。もともとリスクマネジメントとかの話を徹底的に勉強されてりうようでためになる。本章でも「リスクマネーを供給する」って言葉を出てくるけど意味深い。

株式の持ち合いと持ち合い解消
・メインバンク・システムと並ぶわが国の企業システムの特徴として、株式持ち合いが挙げられる。企業間で株式を持ち合い、お互いをモニターとし合うことで、より良い企業経営を実現しようとするシステムのことである。
・一方、株式持ち合いには、短所もある。株式持ち合い強固な企業グループを形成するため、グループ内で付き合いを意識して、企業経営に姿勢が内向きになりかねない。グループ企業が株式の多数を保有するため、株主総会で経営者の責任を問うことは難しくなる。コーポレートガバナンスは機能せず、グループ内でもたれ合いが起こる。企業経営は緊張感をなく、収益性が落ち込む可能性もある。
・近年、株式持ち合いの短所が表面化している。企業は、株式持ち合い解消を進めている。持ち合い解消によって売却された株式を買っている投資主体の一つは外国人投資家である。国内の機関投資家と同様に、外国人投資家も我が国企業の潜在的な技術力を認めているのである、企業の株主となり、企業経営に介入することで、将来より高い利益還元が実現できると考えている。
外国人投資家の株式保有比率の上昇や企業活動のグローバル化が進んだ現在、我が国の企業経営に外国人が加わることも珍しくない。彼らは、コーポレートファイナンスの知識を持ち、株主重視の企業経営を知っている。

日本企業の悪い点のひとつの株式の持ち合いだと良く言われる。あとグループ化で徹底して大きくなろうとする傾向があるんだろう。右を向いても左を向いても同じような企業ばっかりなのも大きいのかも知れんね。韓国なんてメーカーはサムスン一本で勝負ってかんじだからなあ。インテルとかデルみたいにある部分に徹底的に特化したビジネスモデルが大切なんだな。

従業員の視点
・資金調達でもコーポレートファイナンスでも、マーケットの役割が大きくなっている。
従業員の持ち株制度ストックオプション制度を考えると、経営者や従業員は企業の株主でもある。従業員持ち株制度により毎月コツコツ購入した自社株は、大切な財産である。株価があがると資産価値も上がる。
・ストックオプションは、株価が上昇することで、多額の報酬を得ている企業の経営者もいる。一部の大手企業は、株価や企業価値が上昇するとボーナスを増やす企業体系を導入している。株価は多数の投資家が参加するマーケットの評価であり、どのような評価を受けているかは気になるものである。株価の大幅な下落は、マーケットにおける自社の評価は高く安定する。会社の看板を背負うご自身のビジネスも強気に展開できる

ベンチャー企業なんかではストックオプションはめちゃくちゃ従業員にとっては重要である。


■借金すると株価は上がる?
・アメリカの株式市場では、企業が負債比率を高めると、株価が上昇する事例が報告されている。借金した企業の株価が上がる?日本では負債では負債に対するイメージが良くないので、不思議に思われることが多い
・この現象にはいくつかの説明が可能である。ひとつは、最適資本構成の理論。現状の負債比率が、最適資本構成のポイントが低いときに負債比率を高めると企業価値が増加し、株価が上昇する
・金融機関への信用である。金融機関は、融資を行うにあたり、企業の資産内容を収益性を精査するその金融機関が資金を融資したのだから、企業の状態は良いはずである。市場はこのことを評価し株価が上昇する。
・企業が負債比率を高めるのは、デフォルトしない強い自信の表れである。この場合、企業は資本構成の調整を通じて、市場にシグナルを発信しているといえる。

この仕組みは「ざっくり分かるファイナンス」や「企業ファイナンス実証中継」などの本ブログでも紹介した。負債は少なすぎても多すぎてもだめ。直接金融と間接金融のバランス良いファイナンスが大切なんだ。負債を増やせるのはデフォルトしない自信のあらわれって解釈も確かだな。ソフトバンクとかたしかにそうだよね。ボーダフォン買収したときの有利子負債はすごかった。

■税金と機関投資家の影響
・税金を考慮すると、株主が受け取るのは、税引き後の配当であり、税引き後の受け取りも異なる。株主は、税引き後の手取り額が大きい配当政策を好む。
・マイクロソフトが、現金配当に踏み切った背景には、配当減税という税制の変更もあったようである。税金が配当政策に与える影響は自社株買いのセクションでも解説する。
・企業の配当政策は機関投資家の株式保有基準にも影響される。年金基金や投資信託などの機関投資家は、無配企業の株式い保有を敬遠する傾向がある。無配株は保有しないというルールをもつ機関投資家がいる。
・機関投資家は、優れた企業分析能力を持っている。機関投資家に保有される株式は、市場の評価も高くなる。機関投資家に敬遠されることを嫌う企業は資金を内部留保せず、配当することを選択する。
・たとえば、半導体最王手のインテルは、売上成長率が年率25という成長企業であった。同社が配当支払いを始めたい理由は、無配株は保有しないというルールを持つ機関投資家が多かったからだとされている。

配当額と機関投資家との付き合いはたしかにバランスが感覚が必要なんだな。ベンチャー企業がこぞって配当を増やそうと頑張るらしいけど、しっかり内部留保を高めて企業価値の上昇を伸ばすことが最優先だったりもする。配当があればいい会社ってわけでもないから要注意。

【まとめ&感想】
日経文庫は堅い・まじめ。だけどすごく体系化されていてミニ教科書のようで勉強になった。他にもいろいろあるから読んでみたい。「企業財務って万国共通でどこでも通じるものでなければならない、でもリテールファイナンスは国ごとにまるで違う。そこが大きな違い」ってマネックス証券の松本さんが言ってた。その意味でコーポレートファイナンスを体系的に学べるいい本だった。まだまだ初歩なのでさらに一歩踏み込んで勉強したい!

巻末にに載ってた読んで見たい本たちはこちら。結構重い本も多そうだけど。
新版 ファイナンシャル・マネジメント ― 企業財務の理論と実践
基礎からのコーポレート・ファイナンス
現代の財務管理 (有斐閣アルマ)
キャッシュフロー経営入門 (日経文庫)

2011年2月1日火曜日

「日本経済のウソ」を読んで

日本経済のウソ (ちくま新書)
日本経済のウソ (ちくま新書)

経済学に関してはド素人の私ですが、真面目にこの本を読んでみました。もちろんすべて理解できていないですけど...。日本銀行の量的緩和政策を促す高橋洋一氏の近著。

高橋さんは統計的にすごくロジカルに分析・解説してくれるのですばらしくわかりやすい。こういう人の本を読むとやっぱ日本の官僚は優秀だと感じてしまう。どうやらプリンストン大学時代のバーナンキに薫陶を受けたことがかなり大きく影響しているようである。

 「経済学や社会科学では事業の効果を明確に計測する手法がない」と書かれていたけど確かにそうかもしれないね。自分が大学院でやってる研究も社会科学に近いもんがあるけど、結局統計学で立証する以外に方法論がない。でも、結果論でも多くが正しければ正しい可能性は高いんだろう。

参考になった部分。印象に残った部分の要約・抜粋及び感想。
日本経済の定説を疑うべし
・本書では日銀の量的緩和政策が不十分だったことを最近の出来事を中心の分析している。日銀は量的緩和について「金融システムの安定化」としてそのマクロ経済効果はないと言ってきた。逆に言うと、金融政策は経済停滞の原因とはならない。
・経済学や社会科学は、効果を定量的に計測する手法があんまりない。リーマンショックは量的緩和政策の効果を実証するのに良い実験例となった。
スイスの国立銀行は、世界最初の中央銀行であり、1931年には世界ではじめてインフレ目標を設定し、大不況を抜け出し他国として有名。ノーベル経済学賞の創立国でもあり、国民は経済学を信頼している。

ノーベル経済学賞がすべてなのかと言われたら確かにあれだけど,世界的な権威だから
量的緩和をすすめるクルーグマンもノーベル賞受賞。日本ってやっぱガラパゴスなのか?

■日銀はデフレの確信犯
・日銀は日本をデフレにしている確信犯。日銀は消費者物価を0から2%にする様な金融政策を運営しているというが、消費者物価が0 ~-1%になるように運営してきた。
・こんなことになってしまったのは日銀法が問題である。先進国では中央銀行は手段の独立性を保っているが、目的は独立していない。日銀法では目標まで日銀が決めてよくその結果デフレ経済になっても日銀の責任ではない。これほど巨大な権力をもった中央銀行は世界にはない。

日銀って確かに頭脳明晰のエリート中のエリートなんだから,バーナンキやクルーグマンの言っていいることも必ず理解しているはずだ。なんで、こうなるんだろう。組織の罠なのかね?

■ニューケイジアンモデルの誕生
・実際はというと、人々はそれほど合理的に将来を考えているのではなく、まったく将来を考えていないとも言えない曖昧なものだからだ。このような問題を解決することが、マクロ経済学の1980年代以降の課題であった。
・そこで生み出されたのが、現在のマクロ経済学で標準なフレームワークとなっているものである。この分析は、2004年にノーベル経済学賞を与えられたフィン・紀ドランドとエドワードプレスコットによる実物的景気循環理論をベースにさまざまなミクロ理論を取り込んだシンプルな構造だった。この実物的景気循環理論に、独占や寡占を含む不完全競争や財の種類によって異なる価格の硬直性、賃金の硬直性などを組み込むと現在主流となっているニューケイジアンモデルになる。
動学的一般均衡分析は、現時点でまだ発展途上であり、現実の政策決定に使うのは時期尚早という意見が多いモデルである。単純なモデルであるため、一部の政策機関では研究的に施行され、試行されているが、現実世界のデータを十分にフォローできず、政策担当の信頼を十分に得ていないのが実情である。

経済学の素人であるためこの辺はあいまい。でもマクロ経済学上の論争が激しく行われてきたのは分かる。前提条件でいかようにも変わるというルーカスの批判によって,学会はめまぐるしい発展を遂げた。

■日本経済は破たんしない
破たんとは何か?まず言葉の定義を明確にしなければならない。日本が破綻するという人は「国に破綻とは国債の暴落」というケースが多い。
・典型的な10年間の国債について、現在の金利は1.4%程度であるが、もし5%になれば国債価格は25%以上も低下する。あるいは金利が10%になれば、国債価格は50%以上も低下する。しかし、暴落とはどのくらいの期間で国債価格が何%低下するということなのか?これは定義しない限り議論をしても意味がない。
・ギリシャは財政危機に関して公務員給与カットなど税制支出削減、増税というギリシャ独自の緊縮財政を発表しているがヨーロッパのなかでも指折りの公務員天国であり、その実効性が疑われている。おまけに、ギリシャは雇用者の24%は公務員であり、その所得は全体の23%である。政府所有企業の価値はGDP18%となんとも高い。公的セクターの多い日本でも政府所有の企業がGDP10%あるからすごい。
インフレ目標になると金利が上昇するから問題だという人が多いというのが実感。名目成長率と金利は同じような動きになるから問題だという人もいる。これはおかしな話である。
・民間経済がしっかりしていないから、財政最近のための公務員給与カットや民間経済への増税ができるかどうか疑問視されている。

破綻の定義が重要であるとの主張。確かに科学的には,言葉の定義ってすごく重要だ。議論が定まらない。デフレとか破綻とかそういった言葉の定義はとても重要。

■郵政国営化は民業を圧迫する
・金融において、信用が決定的に重要である。国有で政府の後ろ盾があれば、調達コストは国債金利並みになって、最低コストになる。そのままでもし民間並みの経営ができれば、民間金融機関ではまったく対抗できなくほど、強い金融機関になる。これが、国有金融機関に常につきまとう民業圧迫である。
・国有ということは、株主が国民であり、国民は業務を無制限にした倍の運用の失敗のつけを回され、国民負担が増えることを嫌う。そのためあらかじめ、国有の金融機関の業務を制限し、安全かつ確実に運用する。国有の金融機関の場合、武士の商法になって運用失敗する可能性が高い。

量的緩和政策の話がメインだったが郵政の話も盛り込まれていた。高橋さんの主張は鋭い。民営化の本質は、経営が成り立つかどうかであるとの主張。また,官制金融システムの問題点を厳しく追求している。

量的緩和政策やデフレに関する経済ブログを・・・
ケイジアンVSマネタリスト:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669368.html
貨幣数量説:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669057.html
デフレ対策にフリーランチはない:http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51626688.html
復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲:http://cruel.org/krugman/krugback.pdf


【まとめ&感想】
 新書なのにハードカバーの本をガッツリと読んだような充実感が得られた。統計データや実証分析も精緻でさすが東大数学科卒の財務官僚だわと思ってしまった。
 量的緩和政策の話をしていたのに、最後郵政民営化のはなしになった。でもこの章のおかげで、自分も城内実さんが言っていた「自分も郵政は税金投入を受けない独立採算制だ」というのをまるで信じ込んでいたことが明らかになった。官制金融システムのなかに埋もれて税金が実は投入されていたんだな。
あと高橋さんはさすが数学科だけあって、言葉の定義をしっかりしている。破たんとか、デフレとかもともと言葉の定義があいまいなまま議論しているからそもそも身も蓋もないことを強く主張している。たしかにその通り。
 ツイッターで池田信夫さんなんかのつぶやきを見ていると、「量的緩和政策の有効性は実証したいのは分かるけど学会でちゃんと発表して下さい」とか「高橋さんは財務省をやめておかしくなってしまった。非常lに残念だ」というようなコメントをよせており、今後の展開が気になるところである。
 リフレ派の議論は若手の経済学者を中心に盛り上がりつつあるようで、今後の展開が気になる。もちろん、池田さんも著名でアグレッシブな経済学者であることは事実である。

こちらも必見。興味があるのでこちらも読もうと思います。
バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる