2011年1月1日土曜日

「日本の大問題が面白いほど解ける本」を読んで


あめましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
昨年最も勉強になった本のレビューです。

高橋洋一さんが書いた財政・経済政策の本。注目のトピックごとに書かれていて結構面白い。最初はこのおっさん誰?って感じだったけど「さらば財務省!」で初めて知ってすごい人だと感じた。プリンストン大学でFRBの議長のバーナンキから薫陶を受ける、小泉内閣で竹中さんの下で実質的なブレーンの役割を果たす、財務省で埋蔵金の存在を明らかにする、など見事な活躍ぶりを見せた。もともと数学科出身だったこともあり、内容や文章がすごくロジカルで分かりやすい。財務省は法学部、経済学部だけでなくキャラ採用で変わった経歴の人を1人・2人採る傾向があるそうだ。
印象に残った部分は以下の通り。

■高速道路無料化が愚策なわけ
・ネットワークで構成され、段階的に課金することは、困難である。しかし、ETCの普及により非常に楽になる。
・世界では、ピーク・ロードプライシングが一般的。激しく混雑するところは、料金を高くとって緩和するのが一般的。アメリカでもヨーロッパでも一般的。
・交通経済政策としても愚策。様々な交通手段が存在するなかで、個別の交通機関に価格介入することは、好ましくない。鉄道から自動車にシフトすることは間違いない。

高速道路無料化には、論点がごちゃまぜになりすぎていて分けわからなくなっている。経済政策的な問題だけでなく、排気ガス、国の財源問題、道路特会の話などごちゃまぜで議論されている。高橋先生の解答は非常に明快!

■周波数オークションは儲かるか?
周波数帯域の利用免許を、競売で電気通信事業者に売却し、事業を行わせる。
・日本版FCCへの評価は別として、電話割り当て性にこだわる日本の電波行政は極めて特殊。周波数オークションはまず1990年代にアメリカではじまり、ヨーロッパなどで次々に導入。
・日本の携帯電話産業は、「ガラパゴス化された」電話行政のもとで有効活用できていない。電波は国民共有の財産であり、有効活用すべき。先端技術が駆使されているためにもったいない。
・現在もっとも活発な産業のひとつに携帯電話やモバイルインターネットがある。
このような分野にどんどん電波を利用させるべき。電波事業のように、さまざま既得権益の保護のために不必要な規制が横行している。東京のキー局が地方のローカル局を支配し、キー局が大手新聞社を支配している。
・この寡占体制に風穴をあけ、地方分権化させるべき。
NTTNTT労組が大反対。新規参入者が多くなることを恐れているから。

電波オークションの話を初めて知ったのは昨年だな。池田信夫さんとかソフトバンクの孫さんがこの辺の話をガンガンやってて期待したい。それにしてもテレビ局を中心にした電波利権ってすごいんだな。

為替介入は円高阻止効果があるのか?
2003年、2004年の為替介入は日銀に金融緩和を促すためだった。
急激に円高ドル安が進めば、下請け企業を含めた輸出産業の収益が悪化し、ひいてはそれが経済全体に悪影響を与える。1980年代の「円高不況」の状態になる。介入はそれ自体に大きな効果はないが、日本政府の意思を伝える効果はある。(アナウンス効果
・国際金融のトリレンマ。
1)固定相場制
(2)金融の自由化政策
(3)自由な資本政策
この三つは、同時に実現できない。合わせて二つのみ。多くの先進国では、(1)を放棄し、(2)(3)をとっている。中国は(1)を選択している。だから、国際的な商取引を組み込むことができない
・日本は長期に渡ってデフレが続いている。デフレから脱却し、インフレ目標によって物価水準を調整し、円高になりにくい経済環境をつくるべきある。政府に為替介入を求めるのではなく、自己責任で為替変動のリスクをヘッジする。

為替介入の話はちょっと難しくて理解できなかった。もうちょい勉強しよう。

■借金返済猶予法案(中小企業金融円滑化法案)は金融危機をまねくか?
・「亀井モラトリアム」は、金融危機の際には、世界的に見て標準の政策。メディアでは大きくとりあがられたが、金融機関の努力義務を促す施策。返済猶予の情報開示・報告させる仕組みのこと日銀が企業の債権を買い取れば良い。さすがに、借金全部チャラというのは無理。
(1) 貸出債権を日銀が買い取る。
企業が倒産した場合に、回収できなくリスクを日銀が背負うことにすれば良い。
金利部分のみを日銀が支払う。
(2)政府が金利部分について保証する。
・企業が金利部分を猶予してもらったのと同じ意味を示す。これだけでは、マネーの供給量は増えないので、金融緩和にはならない。これを、日銀がキャッシュを出して、買い取ることで民間の金融も活性化する

亀井モラトリアムって昨年すごい問題になったけど、結局副大臣の大塚さんが結構違う法律を無理やりつくったんだな。メディアがとんでもない愚策だって騒いでたけど、実際成立した法律は国際的に経済政策としては王道なんだ。あと、日銀の金融機関へのコミットの仕方が2パターンが書いてあって面白い。

■話題の「寄付控除」とは?
・税には、それぞれの機能と目的がある。再分配政策を行う場合、所得税の累進化と相続税の税率アップはセットになる。相続税はなくし、累進課税も高くしないほうが、社会を活性化できる。
・これには、高齢者の間で広がった資産格差を次の世代に残さない機能と目的を持っている。
寄付控除とは、政府に税金の使い方を決めさせるのではなく、支払う人がある程度使い道を決める方式。寄付が社会事業に投じられるのならば、税金をその社会事業に補助金を出したのと同じこと。
・社会の隅々まで役人が仕切ろうとする社会はダメ。東大の安田講堂など、巨額の資産家が自分の名前を残すことで、認めされるべき。相続税と寄付の違いは、国に税をとられるか自分でパブリックな部分に支出するか、の違いだけ。結果として、税金を払うことと同じ。
・政府が縦割りに予算や施策を決めるのは時代遅れ。ニーズが多様化するなかで、捉えきれない。
バウチャー制が具体的な方策。商品券、引換券を配ることで、ニーズに合ったところに使ってもらう。ミルトン・フリードマンが提唱者。
・子供手当もバウチャーにして、用途制限を配るべき。ふるさと納税は、実は税控除を目指して施策だった。税控除を初めて税制に組み込んだ政策。NPOと独立行政法人への寄付を税控除によりできるようにしたかった。

バウチャーって言葉を知ったのも今年だった。教育バウチャーの話は池田信夫さんとかホリエモンさんの本とかブログで書いてあって実現したらおもしろそう。でも実際は労組とかの政治圧力を受けてなかなか実現しないんだあ。やっぱ強力なリーダーシップを持ち首相・内閣なんだろう。

■負の所得税とは
・ミルトン・フリードマンが提唱。政府の役割をできるだけ最少化すべきと提唱した学者。社会保障と税の統合を提唱した理論。
・所得税がマイナス=給付金。つまり。減税などの政策をうつ場合、高所得者は普通に減税になるが、ある一定水準よりも低い所得の人々は所得税が0に振り切れてしまいその恩恵を被ることができない。そこで、給付金を配る。
給付付き税額控除制度。アメリカで1997年に実施。つまり、税額控除という方法で算出した非納税者に給付を所得税制に組み込んだ制度。

負の所得税って数学的だな。確かにロジックは良く分かる。

■地方分権とは?
・実際にそこに住んでいる人が、ダムを建設したほうがいいのか、決めるべき。
上が決めることではない。レベニューポンド(レベニュー債)を有効活用すべし。事業進める手段として、自治体などが特定の事業に対して発行しその事業から得られる収入によってそれを償還するシステム
投資家は本当に収益が得られるのか徹底的にチェックすることになる。本当の意味での事業仕分けになる。民主主義と金融の原理が貫かれている。
・国がやるにしても結局国債を発行して行うのだから、目的が明確な債券を発行して資金を集め関係するすべての人にオープンな形で事業を行うほうがすっきりする。
・やはり、そのためには「道州制」

事業仕分けの正当性とレベニューポンドのあり方が理解できた。なんでもかんでも上をみないとはじまらない行政ってやっぱもうなりたたない。はやく地域主権を!

【まとめ&感想】
目から鱗の内容ばかり。自分の勉強不足を痛感し、筆者の発想力・知識の幅広さ・エコノミストとしての実力を実感した。政策ウォッチャーの代表格としての活躍をこれからも期待したい。
最後に名著を!
さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別 (講談社プラスアルファ文庫)

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