2010年12月27日月曜日

「実況LIVE企業ファイナンス入門講座」を読んで

実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本
実況LIVE 企業ファイナンス入門講座―ビジネスの意思決定に役立つ財務戦略の基本


投資銀行青春白書図解 株式市場とM&A (翔泳社・図解シリーズ)で知られる言わずとしれた保田隆明さんの本。もともと六本木ビルズで行われた実況ライブを本でまとめたもので、結構分厚いものとなっている。実務の段階からいろんなこぼれ話までざっくばらんにいろんな話が盛り込まれているからかなり豊富で充実している。上記の2冊とは異なり学生向けのゆるい本ではなくかなり専門的な部分まで踏み込んで、解説しており、読みごたえのあるいい本だった。
結構前に買ってパラパラめくっただけで置いておいたけれ、そろそろガチで読もうと思い、まとめながら一気に読破した。
全部は説明できないけれど、印象に残った部分は以下の通り。

■ベンチャーキャピタルと銀行とのバランスのとれた付き合い方
・企業の経営が徐々に軌道に乗り出すと信用力もアップして、銀行が融資に応じてくれるようになる。銀行からの融資を受け入れると、元本の返済・利息の支払いが生じる。収益計画上の費用に支払い利息分のコストが加わり、資金繰り表では元本と利息の返済計画を盛り込む必要性が出てくる。
・銀行とベンチャーキャピタルの大きな違いはリスクの許容度である。ベンチャーキャピタルは、そもそも成功確率が非常に低い中に飛び込んで投資をするため、投資の失敗確率は高いと言える。銀行業は基本的にはローリスクローリターンな商売であり、融資をする場合は失敗は許されない。確実に元本返済と利息支払いが可能であろうと考えられる。


銀行とVCのスタンスの違いが分かる。銀行は間接金融としてあくまで低リスクの融資をする。VCは百戦錬磨で一攫千金の気持ちでファンドを組んで投資をする。

■アナリストの独立性
・株式のアナリスト、債券のアナリストは、投資家に対して売買推奨を行う。中には、「この会社の株式は投資先として魅力的ではない」というレポートも当然でてくる。ただ、そのように書かれている企業側としては、面白くない。そのためにかつては、アナリストがある企業を評価しないレポートを発表した際には、当該企業の財務部の人間が証券会社にクレームを付けることもあった。その場合は、アナリストに直接クレームを付けるわけはなく、投資銀行部の人間にクレームを付ける。アナリストのクライアントは投資家であり、企業ではない。証券会社のなかでも、企業をクライアントとしているのは投資銀行部門であるので、「あなた達にはお願いしませんよ」と圧力をかける。
・実際のところ、資金調達やMAを遂行しうたときに、投資家からの信任の厚い株式のアナリストがポジティブな評価をすることで、案件を正当化することは可能なのである。
・このような背景のもと、2000年頃には投資銀行部門と株式のアナリストそして企業の癒着が問題となり、法定で有罪となったアナリストも登場した。ここから体制ががらりと変わり、クリーン状態になり、今では株式アナリストの独立性が担保されている。
・やはり、企業に関してネガティブなアナリストレポートは依然として数が少ないのが事実である。ネガティブなレポートを書くぐらいであれば企業をカバーしないという手法がとられているようである。


アナリストにもバイサイドのアナリストやセルサイドのアナリストがいるが、これはセルサイドの話。
アナリストとしてのジレンマがよく分かる。職業としてのアナリストの苦悩がわかる。また、M&A部門とは絶対切り離して独立性を維持しないと大変なことになるのだ。

■事業売却としてのMBO
・企業の規模が大きくなってくる、複数の事業部を抱えることになる。中には、会社全体を凌ぐ勢いで成長をする部門がでてくる。残念ながら売却及び対象となる事業も出てくる。企業を売却する場合でも、最近では、MBOという売却先が企業経営陣であるケースが出てきた。ひとつの理由は、敵対的買収防衛策としてMBOである。もう一つは、物言う株主からのプレッシャーを避けて、より経営陣の裁量を経営が行える環境を獲得するためである。

外資系のアクティビスストファンドが日本で暴れたいたころ買収防衛策としてMBOして非上場化することが多かったと聞いたことがありますが・・・。上場しなくてもいい会社はいいですからね。

■ストックオプションとは
ベンチャー企業株主政策で重要なものの一つにストックオプションがある。まずは、将来株式を購入できる権利のことをいう。それだけを聞いてもピンとこないが、人気のコンサートやスポーツ観戦で配られる整理券と考えればよい。整理券やチケット購入ができるのと同じように特別な価格で株式を購入できる。ストックオプションもこれに似ていて、それを持っているひとでだけ特別な価格で株式を購入することができる、といえる。
・ベンチャー企業を中心にモチベーションの向上策で導入されることが多い。というのは、株価が低い段階でストックオプションを発行しておけば、将来上がった分だけ、オプション行使時に利益を得ることができる。ベンチャーに勤務する人が、突然オプションにてお金持ちになったりするのはこのためである。
・実際ベンチャーは経営危機と背中合わせだから、自ら好んで株価と同じ値段を払って、オプションを欲しがったたりしない。
株価と同じ行使価格のオプションはただで配ったりする。これをフリーワラントなどという。


ベンチャーにとって従業員のモチベーション施策は重要。「起業ってこうなんだ」でもでてきた。

■借入金と株式のバランスを考える
・必要なお金は全部借入金で調達すればWACCは小さくなるし、それでいいではないかという議論がでてくる。しかし、借入金を増やしすぎると、今度は倒産のリスクが高まる。資金調達において、WACCが最少となるように、借入金と株式のバランスはどのあたりにするかを探ることが企業の財務戦略上は重要になる
・実際、無借金企業は確かに経営の安定度は高いが、資本コストが高くついているためある程度の借入金を活用した方が企業価値は向上する。格付け機関も最上級の格付けを得ることは経営上あまり重要ではなく借入金を有効活用し、そこそこの格付け(Aぐらい)を維持するほうがいいとオフレコベースではいっている。

直接金融と間接金融を用いたバランスの良い資金調達方法が大切なのだ。WACCと負債比率の関係から説明している。格付けってとにかく高ければいいわけでもないんだなあ。

Google,Yahoo,Microsoftの一例(配当政策について)
・インターネットの検索エンジンで有名なGoogleは配当を行っていない。今後も当面は配当を行う必要はない、と同社ウェブサイトでも書いてある。一方、日本国内の広告代理店最王手電通の純利益が約300億円、フジテレビも日本の上場企業の平均配当性向を上回る配当を支払っているGoogleは配当がゼロである。配当として利益を株主に還元するよりは、内部留保として蓄積し、成長投資に充てて株価を向上させることで株主に還元しようという戦略に基づく判断である。そもそも、創業者2人で起業した会社であるため、大株主の二人に株式を還元してもしょうがないというのが本音である。
・一方、YahooMicrosoftもかつては同じように配当を支払わずに株価上昇で株主に報いるとしていた企業である。しかし、最終的には内部留保のやり場に困り、まだ株価上昇が鈍化したことで、株式から配当を支払って欲しいという要求が高まり、それにこたえる形で配当の支払いを開始した
・日本でもベンチャー企業は配当の支払いが見送られるケースが多く存在しますが、投資家の目が厳しくなっていることもあり、最近でもIT企業など、そもそも投資額がそれほど大きくない企業でも上場後に早めに配当を早めに行う企業が増えている。しかし、株主の目を引きたいからという一過性の可能性もある。

Googleがなぜ配当を行わないのか理解できた。ただ配当を行えれば良い企業なのか、といった問題は別問題である。できたばっかのベンチャーなんかはちゃんと内部留保を蓄積して株価をあげることの方がすごく重要だったりするのだろう。

■ケーススタディ5:ソフトバンクのボーダフォン買収案件
財務内容に余裕がなく、資金調達手法が限られるケースとしてソフトバンクによるボーダフォンの日本事業部の買収案件がある。ソフトバンクはもともと多額の有利子負債を抱えており、格付け上はBBと投資不適格(SP)に属していた。これ以上の有利子負債を抱えることは経営不安を増幅させる一方、このよう状態の企業には積極的なお金を追加で融資したいという金融機関も多くは存在しない。
・そもそもの買収金額が2兆円弱と多額であるため、当時時価総額4兆円弱のソフトバンクが買収資金を全額株式で発行することは不可能である。(通常、増資は時価総額の10%~30%が限度とされている)
・そこで、LBOという手法を用いることになり、買収先の企業の将来のキャッシュフローを担保にお金を借りる手法。ソフトバンクの例では、1.3兆円弱のLBOローンが金融機関から提供された。
・金融機関はソフトバンクに融資をするのではなく、買収するボーダフォン日本法人に関する収益性、成長性に対して融資を行う。どれだけ、ソフトバンクの事業内容、収益状況が悪化しても、携帯事業さえ好調であれば融資が返済されるスキームである。これは、携帯電話事業のキャッシュフローがLBOローンの返済に当てられているからである。

他にも日本板硝子やJTのケーススタディが紹介されており、分かりやすく面白い。ソフトバンクの買収案件は我が国至上最大と言われており理解しておきたい事例である。さすが孫さん!

【まとめ&感想】
・著者は、現在小樽商科大学のMBAコースの教員なのだそうだ。これまでの内容とは違い現場ベースでかなりがっつりした重い内容となっており勉強しがいがあった。
・特に、DCF法のプロセスWACCの考え方などについても分かりやすく、デューデリのプロセスや実際の投資銀行の実務・立ち位置、などおもしろく新たな発見が多かった。「アナリストの独立性」、「株主優待券の功罪」、「繰越決算金による節税効果に関する誤解」、「自社株買いによる敵対的買収防衛策」などコラムが面白かった。
・あと、ソフトバンクJT日本板硝子などの豊富なケーススタディがとても良かった。「ライブドア監査人の告白」で知られる公認会計士である田中慎一との共著「MA企業のホントの価値」もぜひ買って読んでみることとする。
M&A時代 企業価値のホントの考え方―株式市場から評価される会社のお作法

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